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安さで削ってはいけないものがある。貸切バス運賃に含まれる「安全コスト」の話

報道によれば、福島県郡山市の磐越自動車道で、部活動の遠征中とみられる高校生らを乗せたマイクロバスが事故を起こし、高校生1名が亡くなられ、多くの方が負傷されたとのことです。まずは亡くなられた方に心よりお悔やみを申し上げるとともに、けがをされた皆さまの一日も早いご回復をお祈りします。
報道では、学校側から「予算を抑えたい」という要望があり、レンタカーで対応したこと、また営業担当者が知人を介して運転手に依頼したものの、直接の面識や事故歴の把握がなかったことなどが伝えられています。詳細な事実関係や法的評価は、今後の調査・捜査を待つ必要があります。
ただ、この報道を見て、貸切バスやハイヤーの手配に関わる立場として、強く感じたことがあります。
それは、安全が安さに負けてはいけないということです。
発注する側が、少しでもコストを下げたいと考える気持ちは理解できます。学校の部活動、スポーツ団体、地域団体などでは、限られた予算のなかで遠征や合宿を行わなければならないことも多いでしょう。保護者負担を少しでも抑えたい、活動の機会を守りたい、という事情もあると思います。
しかし、移動には必ずリスクがあります。
特に、子どもたちを乗せて長距離を移動する場合、そのリスクを誰が、どのように管理するのかは極めて重要です。そこを「安く済ませられる方法はないか」という発想だけで考えてしまうと、本来守るべきものが後回しになります。
貸切バスの運賃は、ただ車両を出すだけの金額ではありません。
運転者の選任、健康状態の確認、点呼、車両点検、運行管理、保険、緊急時の対応体制、法令に基づく書類の交付、そして会社として責任を負う仕組み。そうしたものが積み重なって、貸切バスの運賃は成り立っています。
国土交通省の貸切バス選定・利用ガイドラインでも、貸切バスの運賃制度は運行の安全性を確保することを目的としており、キロ制運賃と時間制運賃を合算する考え方、さらに安全コストを加算した運賃が公示されていることが示されています。下限を下回る運賃では、安全コストが計上されず、利用者の生命・身体の安全が十分確保されないおそれがあるとも明記されています。
つまり、貸切バスの運賃が「高い」と感じられる背景には、それだけの理由があります。
もちろん、利用者から見れば、見積書に出てくる金額だけが見えます。点呼の時間、運行管理者の確認、車両整備、保険、安全教育、緊急時対応などは、目に見えにくい部分です。
しかし、見えにくいからといって、存在しないわけではありません。
むしろ、見えにくい部分こそが、安全を支えています。
今回の報道で特に考えさせられるのは、「レンタカーと運転手」の組み合わせです。
レンタカーを借りて、借りた人自身が運転する。あるいは、借りた人が自らの責任で別の人に運転を依頼する。こうした形そのものが、ただちにすべて違法になるわけではありません。
しかし、国土交通省の資料では、レンタカーと運転手が一体的に提供されるサービス、レンタカー事業者が借受人に対して運転者を紹介・あっせんすることを含む形は、いわゆる「白バス」「白タク」と呼ばれる法律違反行為であり、利用しないよう注意喚起されています。さらに、違法な白バス・白タクを利用して事故に遭った場合、保険の適用がないことがあるともされています。
今回のケースでは、請け元の会社がレンタカーと運転手を一体で提供し、レンタカーの借受人も、実際の運転手ではなく請け元会社の営業担当だったということなので、いわゆる白バスと判定される可能性は高いのではないかと思います。
ここが非常に大切です。
「レンタカーだから安い」
「知り合いの運転手だから大丈夫」
「何度も頼んでいるから問題ない」
「実費だけだから問題ない」
こうした感覚で、人を乗せる移動を組み立ててはいけません。
特に、貸切バス事業者や交通に関わる事業者であれば、なおさらです。発注者から「もっと安くできないか」と言われることは、現場では珍しくありません。日ごろの付き合いがある相手なら、断りにくいこともあるでしょう。
それでも、できないことはできないと伝える。
危ない方法は危ないと説明する。
法令上問題があり得る手法には、絶対に手を出さない。
これは単なる建前ではなく、事業者としての根幹です。
貸切バス会社が、自ら貸切バスの安全コストを否定するような代替手段を提示してしまえば、それは自社の事業そのものを否定することにもなりかねません。
安く受けることが親切なのではありません。
本当に親切なのは、なぜこの金額になるのかを説明することです。
「この運賃には、運転者の管理、点呼、点検、保険、緊急時対応などが含まれています」
「この行程なら、この時間と距離の計算になります」
「安全上、この方法ではお受けできません」
「ご予算に合わせるなら、日程や人数、車両サイズ、行程の見直しをしましょう」
こうした説明をすることが、交通に関わる会社の責任だと思います。
一方で、発注する側にも考えていただきたいことがあります。
学校の部活動やスポーツ団体の遠征は、単発の旅行とは違います。日常的に移動需要があり、過去にも遠征や大会参加の経験があるはずです。もちろん交通事業の専門家ではないかもしれませんが、まったくの素人とも言い切れません。
まして、預かっているのは親御さんの大切なお子さまです。
「安く行ければよい」では済みません。
「これまでも大丈夫だった」では済みません。
「相手が手配してくれたから安心」でも済みません。
その移動手段は、法令上問題がないのか。
車両は緑ナンバーなのか。
運送引受書は出ているのか。
運行会社の責任体制は明確なのか。
保険や緊急時の連絡体制は確認されているのか。
こうした確認は、決して形式的なものではありません。
国土交通省の資料でも、許可を受けた貸切バス事業者は、運送引受書に運行内容、運賃・料金、保険契約の概要、緊急連絡先などを記載することとされています。貸切バスの契約は、単なる口約束ではなく、責任の所在を明確にする仕組みの上に成り立っています。
安さは大切です。
しかし、安全より上に置いてはいけません。
貸切バスの運賃が高く見えるとき、その金額の向こう側に何が含まれているのか。そこを、利用者にも、発注者にも、そして私たち交通に関わる事業者自身にも、もっと丁寧に伝えていく必要があると感じます。
今回のような事故を、単なる一つの報道として終わらせてはいけません。
安さを求めること自体が悪いのではありません。
しかし、安さのために、安全の仕組みを抜いてはいけない。
安さのために、責任の所在を曖昧にしてはいけない。
安さのために、子どもたちの命を乗せる移動を、危うい形にしてはいけない。
貸切バスの運賃には、安全に対するコストが含まれています。
そのことを、もっと社会全体で理解していく必要があります。
そして私たち手配に関わる側も、ただ見積りを出すだけでなく、なぜその金額になるのか、なぜその方法でなければならないのかを、これまで以上に丁寧に説明していかなければならないと思います。
安さで削ってはいけないものがある。
交通の仕事に関わる者として、そのことを改めて強く感じています。
株式会社APワールド
全国のハイヤー・貸切バス手配のご相談を承ります。
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株式会社 APワールド
代表取締役 福田一正



